このホームページを通じてご連絡をいただいて、半年ぐらい情報交換をさせていただいていた方に会いに、様似町に行ってきました!
様似町でアイヌ語・アイヌ文化を研究していらっしゃる大野徹人さんという方です。
彼は数年前から道南アイヌについても調査されているそうで、長万部アイヌのことも重点的にお調べになっています。研究員・露口さんのブログからこちらの研究所にたどり着いたそう。ご縁ですね…!
大野さんはアイヌが写る北海道の戦前戦後の観光絵葉書を数百枚収集されています。ご本人も仰っておられましたが、こういう写真絵葉書は、だいたい被写体は無名だったり、解説も信ぴょう性の無い書き方をしているものが多いです。しかし、大野さんの場合は、いろいろな写真絵葉書を見るうちに、その資料的価値に気づいたとのこと。実際お持ちの資料では、アイヌの方々が解説の内容に積極的に関わった絵葉書もあるということで、確かに貴重です。
メールでのやりとりだけでも、収集されている資料のボリュームも、読み解きの技術もものすごく、ここまで長万部アイヌについて詳しい方はおそらく他にはいらっしゃらないと思います。
というわけで、今回、念願叶ってついに様似に行けました。
戦前、長万部には「エカシケンル(祖先の尊き家)保存会」というアイヌ文化を保存し、長万部観光に利用するような活動がありました。戦後にエカシケンルという存在が再評価されることになったのは、町が『熱き鼓動』(1994)という写真集を作るタイミングだったと思います。当時この写真集の制作に関わり、複写・編集を行ったというSさんと偶然知り合って、お話をお聞きしました。その後に別の町発行物でもエカシケンルが取り上げられているのですが、それもSさんが編集に携わっていたからでした。
この写真集には、長万部写真道場の多くのメンバーが写真提供を行っていて、特に澤博さんの写真は多く使われています。地元からの意見として道場メンバーから編集に関するご意見などもあったようです。
ところで、昨年NHK北海道スペシャル「今よみがえるアイヌの言霊」として番組化され話題になったアイヌ語レコードがあります。これは、昭和22年から23年にかけて、NHKが北大教授の知里真志保氏の監修を受けながら、北海道各地でアイヌの歌や言葉を録音したものです。製作はNHKとコロムビア社の協力とのこと。総量はSPレコード100枚ほどにもなります。
参考:「今よみがえるアイヌの言霊」 https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/20/2259560/index.html
これと同じ時に録音されたレコードで、長万部アイヌの語りが録音されているものがあるそうです。
長万部でこのレコードに声を吹き込んだ人物は、エカシケンルに携わった長万部アイヌの長老でした。掛川源一郎や長万部写真道場メンバーの被写体にもなっています。
大野さんは最近、この時に録音された長万部のSPレコードを入手したということで、実際にレコードプレーヤーから針を落として聞かせてもらいました。
(ちなみに、ドライブ中の車内でも、長万部の方のアイヌ語の語りをCD化したものをずっと聞かせてもらいました、、、。)
私はアイヌ語は分かりませんが、音声でこのようにしっかりと記録が残っているということに驚きと感動を覚えました。
長万部写真道場の写真にもアイヌの方々の写真があります。地元のアイヌのそれぞれの意思がどうであるかが前提になりますが、戦後に至るまで地域独自の方言・言い回しを持つアイヌ語話者がおり、エカシケンル時代からの写真で見る限りでは自分たちの文化を残そう、知ってもらおうという意思のある人々のいた地域が道南にあるということ自体は、もう少し知られても良いのではないかと思います。
いますぐそのような判断ができなくても、写真絵葉書のような、一見すると取り留めのないもの、それ自体に大した価値がないようなものもそうですが、そのようなものでも資料が残っていれば何らかの可能性は開けておけるのかもなーと思いました。資料保存と将来的な価値を見極める難しさも感じて帰ってきました。
今回は、長万部アイヌ関係の貴重な資料、文献等も惜しみなく見せていただいて本当に勉強になりました。
また、せっかくここまで来られたからと、襟裳岬や豊似湖、様似の史跡や遺跡、郷土館などなど、現地の様々な場所を沢山ご紹介いただきました。
本当にありがとうございました。
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ところで、『熱き鼓動』について、Sさんとお話していたとき、長万部町に残る最古の写真として、飯生神社に残る鶏卵紙写真も複写させていただいて、この写真集に収めたと伺っています。アマチュアの熱狂的な写真ブームが殆ど収束したころの1994年(平成6年)に、自分たちの写真を、自分たち以前の時代の写真(最近できた言葉で言えば「初期写真」)と接続して、郷土の記録としてまとめる動きがあったということに、個人的には興味を惹かれます。
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最近、というか今年の春頃、私が郷土の作家の先輩として慕っていて、郷土史や町の地名についての教えをいただいた詩人の薩川先生がお亡くなりになられました。この場をお借りして、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
私は、なるべく残せればいいなと思って、資料の保管だとか、写真道場メンバーや関係者の聞き取りを続けていますが、資料をどうやって残すのか、活かすのか、最終的には歴史をどういう風に語り継ぐのか、、、個人的な活動だからというのもあると思いますが、活動を続ける中で困難さに直面することが多いです。薩川さんが居なくなってしまったというのも、長万部の歴史を語れるとても大事な存在がまた一人居なくなってしまったという思いが強いです。自分だけでできることは限られており、個人の力の限界を常に感じているのですが、こうやって色々な人と交流し、お互いの情報をやりとりできるというのは本当にかけがえの無いありがたい機会だと思います。
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